『数理物理 Advent Calendar 2018』22日目の記事です。 adventar.org 昨日に公開しないといけませんでしたが、遅れて今日公開となりました。
概要
Sine-square deformation (SSD) *1 とは、モデルのエネルギースケールをsin関数の2乗に従って端へ行くほど小さくしていく変形のことです。ある種の1次元量子系に対してSSDを施した場合、SSDのモデルの基底状態は、元のモデルで周期的境界条件を課した場合の基底状態に一致します。この一致性はCFTで説明されます。本記事では、SSDとCFTの関係性を簡単に紹介したいと思います。
Sine-Square Deformation
SSDがどのような変形なのかを説明します。tight-bindingモデルから始めます。サイト数をとしてハミルトニアンを書くと、
となります。ただし周期的境界条件
を課しています。SSDでは次のように変形します。
今度はこれを様々なモデルに一般化した形に書き換えます。
ここで
です。
tight-binding モデルの場合は、
です。
この一般化したハミルトニアンを念頭において、CFTの話に移ろうと思います。CFTの話では連続系の話になるので、総和が積分になることに注意してください。
SSDとCFT
CFTとの関係性*2を駆け足で述べます。CFTについてはある程度既知であるものとして、話を進めます。
ここでは周長の無限の長さのシリンダー上のCFTを考えます。ハミルトニアンは
です。ここで、で、
はエネルギー運動量テンソルである。
conformal mapping
を使うと、
と表せる。は次のようにモード展開できて、
展開係数 はVirasoro代数の関係式
を満たします。
を使ってハミルトニアンを書き換えることができて、
の書けます。基底状態は です。
ここからSSDの話に移ります。SSDハミルトニアンを得るために、次のchiralハミルトニアンを導入します。
で得られます。chiralハミルトニアンはVirasoro代数を使うと、
と表せます。これを利用すると、元のハミルトニアンの基底状態がSSDハミルトニアンの基底状態であることがわかります。
駆け足で述べたので、いろいろ話を端折ってます。詳しい話は脚注の原論文で確認してください。
For Further Reading
SSD考案者の1人である西野友年氏*3のWebサイトにSSDに関する文献のリストがまとまられていますので、そちらを見ると参考になると思います。
今年の6月にSSDの研究会が開かれたようです。
Workshop on Sine square deformation and related topics | iTHEMS
おまけ
ここで自分の大学院時代の研究についてさらっと触れておきます。 論文は
[1412.3053] Bulk Property on Cayley Tree with Smooth Boundary Condition
です。査読は通らなかったですけどね。
SSDをCayley Tree上のモデルに適用して基底状態の物理量を計算すると、Bethe格子(Cayley Treeの無限格子版)の基底状態の物理量の近似値が得られる、ということを数値的に示しました。